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2014年自然災害のレビュー: 異常気象や地震による損害の減少

掲載日:2015/02/04

日付: 2015年1月7日
出典: ミュンヘン再保険会社(Munich Re)


プレスリリース

非常に深刻な大災害がなかったことと、北大西洋のハリケーンシーズンが平穏だったことにより、2014年の自然災害による損害は大幅に低く抑えられた。損害額が一番大きかったのはインドのサイクロン「フッドフッド」で、70億USドルであった。約7,700人が自然災害で命を落とした。

「個々のケースは痛ましいものであるが、昨年は自然災害の死者数が少なかったという事実は良いニュースである。そしてこれは単なる偶然ではない。多くの地域で、早期警報システムがより良く機能し、例えばインド東海岸を襲ったサイクロン「フッドフッド」やフィリピン海岸を襲った台風「ハグピート」の前など、気象災害が予測されるときは当局が一貫して人々を安全な場所に避難させた。」とミュンヘン再保険会社取締役のトーステン・ジェウォレック氏は言う。「しかし、2014年の損害が少なかったことで、我々は安全に対する意識を誤ってはいけない。なぜならば、全体としてリスク状況は変わっていないからだ。2015年が同じように穏やかになると期待できる理由はない。しかし、どんな年でも、何が起こるか予測するのは不可能である。」

ひと目でわかる2014年

  • 自然災害による損害全体の総額は1,100億USドル(前年は1,400億ドル)で、そのうち概ね310億ドル(前年は390億ドル)に保険がかけられていた。
  • この損害額は、過去10年の平均額をインフレ調整したもの(損害全体は1,900億ドル、保険損害は580億ドル)をはるかに下回っており、過去30年の平均額(損害全体1,300億ドル、保険損害330億ドル)よりも低い。
  • 死者数は7,700人で2013年(21,000人)よりも大幅に少なく、また過去10年(97,000人)および過去30年(56,000人)の平均値よりもはるかに少ない。この数字は1984年とほぼ同じである。2014年で最も深刻な自然災害は9月にインドとパキスタンで発生した洪水であり、665人の死者を出した。
  • 損害に関係する災害として合計で980の自然災害が記録されており、これは過去10年(830)および過去30年(640)の平均よりもだいぶ多い。広範な記録が行われたことが一因となっていると思われる。損害の少ない年には、小さな災害でも通常より大きな注目を集めることになるためである。
  • 2014年の最も損害額の大きかった自然災害はサイクロン「フッドフッド」であり、損害額全体で70億ドルにのぼる。保険業界で最も損害の大きい自然災害は日本に大雪をもたらした冬の嵐で、保険損害は31億ドルであった。

損害につながる自然災害の9割以上(92%)が気象によるものであった。特に目立つ点としては、北大西洋のハリケーンシーズンがいつになく穏やかであったことであり、強い嵐はたった8件だった(それゆえ名前がつけられた)。長期的な平均(1950-2013年)は11件である。対照的に、東太平洋の熱帯サイクロンシーズンは並外れて嵐の数が多いが、そのほとんどが上陸しなかった。東太平洋で発生したハリケーンのひとつ、「オディール」はバハカリフォルニア半島を北に縦断し、メキシコおよびアメリカ合衆国南部で25億ドルの損害(うち保険でカバーされるのは12億ドル)を生んだ。北西太平洋では、比較的多数の台風が日本の沿岸を襲ったが、建築およびインフラ水準が高いおかげで損害は少なく済んだ。

「この傾向は、エルニーニョ発生段階で予測されるものと一致している。太平洋におけるエルニーニョ南方振動(ENSO)現象の特徴は、世界中の異常気象に影響を及ぼしている。」とミュンヘン再保険会社で地盤リスク研究のリーダーを務めるピーター・ホッペ氏は説明する。北大西洋の海水温は平均を下回っていた。低い湿度や強いウィンドシアといった大気条件も熱帯低気圧の発生を抑えた。12月にカリフォルニアで日照り続きの後に起こった深刻な暴風や大雨などの災害も、このエルニーニョ現象に当てはまる。

ホッペ氏はまた、多くの科学者は、2015年半ばまでは軽度から中程度のエルニーニョ現象が続くと予測していると付け加えた。「2014年が平均以下であった後、アメリカで竜巻の頻度が上昇するかもしれない。エルニーニョ現象が本当に今年中盤までに終わることになれば、熱帯性低気圧シーズンが本格化する際にENSOからの緩衝作用がなくなると考えられる。」

2014年で最も損害の大きかった自然災害、サイクロン「フッドフッド」はまた、被害を抑えるための当局による措置の実際的な効果を明らかにした。「フッドフッド」は、10月10日にベンガル湾において最大勢力に達し、風速が190km/hを超えてカテゴリー4の暴風雨(5が最大)となった。10月12日には、アーンドラ・プラデーシュ地域の重要な経済の中心地であり人口200万人を擁するインドの港、ヴィシャカパトナムに上陸した。場所によっては、24時間で1平方メートルあたり120リットル以上もの雨が降ったとされる。インド気象サービスによる警告のおかげで、当局は50万人の人々を安全な宿泊場所に避難させた。このことで、このレベルの災害にしては死者数を低く(84人)抑えることができた。約70億ドルの損害全体のうち、5億3,000万ドルに保険がかけられていた。これは割合としては比較的少ない数字であるが、インドの保険密度は一貫した伸びを示している。

台風「ハグピート」でも状況は同様であった。「ハグピート」は12月6日にフィリピンのサマール島を襲った後、本島および首都マニラに向かった。上陸時はカテゴリー3の台風であり、時折175km/hを超える風速になっていた。したがって「ハグピート」は、前年に6,000人の死者を出したスーパー台風「ハイヤン」よりは弱かったが、それでも非常に破壊的であった。ハグピート襲来の前に、当局は16万5千人を避難させており、その結果死者数はわずか18人であった。

8月24日未明、カリフォルニアのナパタウンに近いナパバレーで地震が発生した。ナパは、サンアンドレアス断層の一部をなすいくつかの既知の断層がある、幅70kmの非常に危険にさらされた地域にある。ここでは、毎年6cmのスピードで西側の太平洋プレートが東側の北米プレートの下に入り込んでいる。ナパの地震はマグニチュード6.0で、この地域にしてはとてつもなく強いものではなかったが、多くの建物が深刻な損害を受けた。経済的損害は7億ドルにのぼり、そのうち1億5千万ドルが保険に入っていた。この地域は重要なワイン生産地であり、多くの業者でワイン醸造機械が損害を受け貯蔵していたワインが破壊された。「この地震は、サンフランシスコ地域はより大きな災害に備えなくてはならないことを示している。しかしそれは予測できない。」ホッペ氏は言う。

北アメリカで昨年の最大の損害は、異常に寒さの厳しい冬であった。アメリカ合衆国およびカナダの多くの地域、特に東海岸で何週間もひどい凍結が続いたり、大雪や猛吹雪が発生し、2014年だけで37億ドルの損害(うち保険は23億ドル)を招いた。

ヨーロッパの夏は、前年同様、ヒョウの嵐で非常に大きな損害を被った。6月にフランス、ベルギー、そしてドイツ西部を通過した低気圧エラが要因であった。この低気圧は風速が高く、ところどころで直径10cmものヒョウを降らせた。損害全体は35億ドル(25億ユーロ)にのぼり、うち保険損害は28億ドル(20億ユーロ)であった。ドイツではこのヒョウの損害は12億ドル(8億8千万ユーロ)となり、うち保険がかけられていたのは8億9千万ドル(6億5千万ユーロ)であった。

「技術的には対流活動として知られる激しい雷雨が原因となる、損害につながる厳しい気候は、アメリカ合衆国や中央ヨーロッパなど様々な地域で明らかに増加している。ヒョウも甚大な損害につながり得る。したがって、例えば建物など、損害の受けやすさを軽減する措置が最も重要である。」ホッペ氏は言う。